失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

2019-01-01から1年間の記事一覧

ヒトとコンピュータの処理の違い

今回は、ヒトとコンピューターの処理の違いについて考えていきたいと思います。 Alの進歩は凄まじくAIと会話をしても違和感がないところまで技術が進んでいます。しかし、コンピューターの行為と人間の行為がたとえ同じであってもそこに至る過程は異なります…

会話における4つの公理

言語学者のポール・グライスが協調の原理として4つの公理を示しています。 1.量の公理:必要な量の情報を提供し、情報を過不足なく与えること 2.質の公理:真実と思っていることを言うこと 3.関係性の公理:関連性のあることを言うこと 4.容態の公理:不明…

言語の専門家として

ことばの障害を専門とする言語聴覚士(以下ST)ですが、日本語の仕組みについて詳しく知っているSTは少ないと思います。 STの国家試験では、言語学の分野からも出題されるため勉強しますが、臨床現場ではほとんど使う機会はないです。しかし、相手が誤った発話…

舌は第三の手

先日、ディサースリアの新しい訓練法であるMTPSSEの講習会を受講してきました。今年が第1回目の講習会で、来年以降も講習会を行うようです。今回参加した第1回の講習会では考案者の西尾先生が全て講義をしていただきました。 その中で、特に印象に残ったの…

失語症のタイプ分類 〜遠心性運動失語〜

失語症のタイプ分類は、ボストン学派などの古典分類が有名です。今回は、一般的なタイプ分類ではなく、ルリヤによる分類を紹介していきます。 この分類は、全体構造法(JIST)を行う上で重要なものですが、それ以外のリハビリをしていく上でも参考になると思い…

言語行為について オースティン「言語と行為」

イギリスの言語哲学者であるオースティンが「言語と行為」(1962)で言語行為と言うものを3つに分類しています。 1.発話行為:伝達を目的として、一定の意味を持つ文を発話する行為。 2.発話内行為:発話によって、その意図が聞き手に伝わること。 3.発話媒介…

失語症治療のアプローチ方法12 〜認知神経リハビリテーション〜

認知神経リハビリテーションとは、元々片麻痺のリハビリから発展してきたもので、イタリアの臨床神経生理学者カルロ・ペルフェッティにより考えられたものです。 現在では片麻痺だけではなく、失行、半側空間無視、疼痛など様々な領域に展開されており、失語…

失語症治療のアプローチ方法11 〜認知言語治療(福島メソッド)〜

認知言語治療は、福島メソッド失語症の認知言語治療ーその方法と実践ー(著:福島和子)で紹介されているものです。 この方法は、認知機能の改善から言語機能の改善を図る治療法です。 脳は、以下の3つの階層的機構に分かれます。 脳幹:生命維持装置 基底…

失語症治療のアプローチ方法10 〜全体構造法(JIST)〜

全体構造法(以下JIST)は、新潟リハビリテーション大学教授の道関京子先生が考えられた治療法です。 言語聴覚士(以下ST)の養成過程ではあまり教えない方法で、働き始めてから本格的に知る方が多いのではないかと思います。 JISTについては教科書が数冊出…

失語症治療のアプローチ方法9 〜 speeded therapy (RISP) 〜

RISP(repeated increasingly speeded presentation)は、刺激絵を提示された後にできるだけ速く呼称するという訓練方法で、2016年8月に広島で開催された「認知神経心理学研究会」でLambon Ralph教授が紹介したものです。 RISPは日本ではほとんど知られいな…

失語症治療のアプローチ方法8 〜認知神経心理学的アプローチ〜

認知神経心理学的アプローチは、主に言語機能の修復や再編成を目指す治療法です。 本邦の失語症治療で現在最も利用されている訓練法の一つです。 認知神経心理学は、Marshallら(1966,1973)による読み書き患者に関する二本の論文が起源です。読み障害のある…

失語症治療のアプローチ方法7 〜CIAT〜

PACEに関連した訓練方法としてCIセラピーの理論を失語症に応用したCIAT(CI aphasia therapy)というものがあります。 CIセラピーは、健側の上肢の使用を制限して麻痺側上肢を強制的に使用させる作業療法士が用いる手技の一つです。 また、言語聴覚士(以下ST…

失語症治療のアプローチ方法6 〜PACE〜

PACE(promoting aphasics communicative effectiveness)訓練は、日常コミュニケーションに近い場面を設定し、自然なコミュニケーションに含まれる手段や条件を活用し、対話形式を重視するものとして開発されたものです。 PACE訓練の原則として以下の4つが…

失語症治療のアプローチ方法5 〜意味セラピー〜

失語症の呼称障害に対して意味的な課題を用いた治療的介入を意味セラピーと言います。 意味セラピーの訓練として以下のものがあります。 1.音声と絵の照合課題:音声で提示された単語に対応する絵を意味的に関連する複数枚の絵の中から選ぶ 2.文字と絵の照合…

失語症治療のアプローチ方法4 〜メロディックイントネーションセラピー〜

メロディックイントネーションセラピー(MIT)は、1970年代にアメリカで開発された音楽のもつ節回しやリズムを利用して失語症者の発話を改善させる方法です。 通常の訓練では、音韻・意味・文法などの言語学的要素(主に左脳)を用いるのに対して、MITは非言語…

失語症治療のアプローチ方法3 〜機能再編成法〜

Luriaによって提唱された訓練方法です。 刺激法では、障害された機能そのものに働くかけ抑制された機能を賦活させる方法ですが、機能再編成法は、障害された言語機能の直接の刺激では回復困難だと考え、保たれている機能を利用して迂回路を形成するというも…

失語症治療のアプローチ方法2 〜遮断除去法〜

遮断除去法(deblocking method)は、Weiglによって提唱されたもので、ブロックされたものを解除するという考え方の治療法です。 言語機能が消失したのではなくアクセスの障害であり、刺激を用いて促通させるという点は刺激法と共通しています。 失語症者は、…

失語症治療のアプローチ方法1 〜刺激法〜

失語症治療のアプローチ方法には様々なものがあります。その方法を簡単に説明していきたいと思います。 刺激法は、WepmanやSchuellらによって提唱され、失語症治療として幅広く用いられているアプローチ方法です。 治療原則として以下の6つがあります。 強…

ジャクソンの神経心理学 〜失語症は本当に「ことばを失っているのか」〜

失語症の特徴として、自動性と意図性の乖離があります。これは、無意識下ではできることも意識してしまうとできないというものです。例えば、失語症患者が復唱や呼称が全くできないのに、普段の生活では挨拶や返事ができてしまうような状態です。なぜそのよ…

史上最強の哲学入門 〜呼称訓練について考える〜

哲学をこれから学んでいこうという人にオススメの本です。 本書は、様々な哲学者の考え方を以下の4つのテーマに分けて説明しています。 真理の「真理」 国家の「真理」 神様の「真理」 存在の「真理」 今回は、『存在の「真理」』で登場するソシュールの考…

失語症 治療へのアプローチ 著 Anna Basso

失語症のタイプ分類は、ブローカ失語、ウェルニッケ失語、伝導失語などいわゆるBoston学派を中心とした古典分類が有名です。この分類方法は、発話の流暢性、復唱、聴理解の3項目で構成されています。失語症に関する論文や学会発表でも古典分類で示されてい…

言語聴覚士の専門領域は?

言語聴覚士(ST)は、主に嚥下障害、高次脳機能障害、失語症、構音障害に対してリハビリをすることが多く、その中で現在STが最も関わっているものは嚥下障害です。もし、上記に挙げた全ての障害を持った患者がいた場合、最初に取り組むのは嚥下障害だと思い…

リハビリ室の本棚に思うこと

私は回復期リハビリ病院で言語聴覚士として働いています。言語聴覚士とは、飲み込みの障害(嚥下障害)や言語障害(失語症・構音障害など)に対して回復を目指しリハビリを行う仕事です。 私の働いている病院のリハビリ室には本棚があり、そこにはリハビリテ…