失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

失語症治療のアプローチ方法12 〜認知神経リハビリテーション〜

認知神経リハビリテーションとは、元々片麻痺のリハビリから発展してきたもので、イタリアの臨床神経生理学者カルロ・ペルフェッティにより考えられたものです。

現在では片麻痺だけではなく、失行、半側空間無視、疼痛など様々な領域に展開されており、失語症に対するアプローチも考えられています。

ちなみに、認知神経リハビリテーションという言葉を聞くと以前紹介した「認知神経心理学的アプローチ」と混合しやすいですが、その方法とは関係はありません。

 

認知神経リハビリテーションは理学療法士、作業療法士の中では知っている人が多い訓練方法ですが、言語聴覚士(以下ST)では、ほとんど知られていません。

現在STがこの方法を学ぶには、本学会が主催しているベーシックコースを受講(2019年度は8月に名古屋で開催予定)するか、千葉県認知神経リハビリテーション言語療法研究部会という地区勉強会(他の地区でも勉強会は実施しているがST向けのものは千葉のみ)に参加する方法があります。

最近、失語症に特化した認知神経リハビリテーションの教科書が販売されたので、以前と比べ学べる機会は増えていますが、本書を読んだだけでは、この方法の本質的なところは理解しにくいと思います。

 

このブログでは、興味があるけどどうやってリハビリしていけばいいのかわからないという人に向けて手助けになるようなことを伝えられればと思います。

私自身は、この方法と出会って約3年ぐらい経ちますが、知れば知るほど奥深さを感じており、未だに理解できていないことも多いです。まだまだ発展途上の方法のため皆さんと一緒に考えていければと思います。

 

今回は、認知神経リハビリテーションの基本概念について説明していきます。

まずは、運動と行為の違いを説明します。

運動:身体の動き

行為:目的を持って行うもの

運動というカテゴリーの中に行為が含まれている関係性です。

 

私たちが体を動かすのは、何か目的があって動かしていることがほとんどです。例えば、ペットボトルに手を伸ばすという運動を考えてみましょう。そこには水を飲みたいという目的があるかもしれないし、空になったものならゴミ箱に入れることが目的かもしれません。何も目的なくペットボトルに手を伸ばすことはありません。無意識に手を伸ばしていても、無意識の中でも目的を持って行動しています。リハビリに置き換えて考えてみると、一見同じ動作を練習していても、目的を持って取り組んでいるかいないかで結果は変わってきます。それは、運動のリハビリをしているのか行為のリハビリをしているのかの違いです。

認知神経リハビリテーションは、後者を重視してリハビリをしていきます。失語症に関しても同様です。言語学の用語として言語行為というものがあります。これは言語も行為の一つとして捉える考え方で、認知神経リハビリテーションを学ぶ上で重要な考え方の一つです。(後日詳しく解説します)

 

一般的な失語症の訓練として呼称訓練というものがあります。

これは、絵を見せて名前を答えてもらうというものですが、そこには行為の要素が含まれていません。例えば、「りんご」と言うときは、りんごを買ってほしいとかりんごを食べたいなど目的があって言葉を表出するわけですが、呼称訓練では、りんごと正しく言ってもりんごが食べれるわけでもなく目的が達成されません。厳密にいえば、「りんご」という言葉を正しく言うことで今後りんごが食べたいときに相手に伝わりやすいように今はりんごが食べれないけれど「りんご」という言葉を練習しようという目的を持って取り組んでいれば、行為の一つになるかもしれませんが、そこまで考えれる人は自然に失語症の症状も回復してくると思います。

ただ単に言葉が言えるだけでなく、自分の目的に沿って言葉が表出できるようにしていくことが認知神経リハビリテーションの大きな特徴です。

 

今後もこの方法に関してブログで紹介していきたいと思います。