失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

ジャクソンの神経心理学 〜失語症は本当に「ことばを失っているのか」〜

 

 失語症の特徴として、自動性と意図性の乖離があります。
これは、無意識下ではできることも意識してしまうとできないというものです。
例えば、失語症患者が復唱や呼称が全くできないのに、普段の生活では挨拶や返事ができてしまうような状態です。
なぜそのような現象が起こるのでしょうか?
今回紹介するこの本がヒントを与えてくれるかもしれません。

 

Jacksonは、イギリスの神経医で19世紀に活躍した人物です。
大脳系の進化を以下の3つの原則にまとめています。

1.進化はもっとも強く組織化された状態から、もっとも組織化されていない状態への移行
2.進化はもっとも単純な状態から、もっとも複雑な状態への移行
3.進化はもっとも自動的な状態から、もっとも意図的な状態への移行

挨拶や自分の名前は、何度も発している言葉で組織化されているものです。また、単純な構造で、自動的(反射的)に発することができるため、無意識下でも表出されやすいのです。

 

また、神経疾患の症候を陰性・陽性の2つに分けて説明しています。
陰性症候:機能の活動が疾患によって低下してしまう状態
陽性症候:疾患によってこれまでの機能が過剰にし始める状態
つまり、陰性状態と陽性状態という正反対の状態を同時に作り出してしまうという考え方です。

 

具体例としては、失語症患者が「机」の名前を聞かれて「椅子」と答えた場合、「机」と言えないのが陰性症候で、「椅子」と答えるのが陽性症候です。

 

失語症は「語を失う」と書くため、失われていた部分に注目しがちです。しかし、障害されていない部分がどのように影響しているのかを理解することも評価・治療していく上で大切になってくると思います。