失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

ファクトフルネスから考えるリハビリ1 分断本能

ファクトフルネスというベストセラーの本があります。これは貧困や教育など世界情勢を正しく見る方法が書かれていて、言語聴覚士(以下ST)の仕事とは関係ないように思えます。しかし、データを正しく読み取るというところには共通点があると思います。今回は、ファクトフルネスをもとに正しくデータ(検査・観察場面)を正しく捉える術を数回にわたって考えていきたいと思います。

今回紹介するのは「分断本能」です。これは、世界は分断されているという思い込みのことで、貧困問題でいうと世界は富裕層と貧困層の二極化しているという考え方です。

 

失語症検査のSLTAで考えてみましょう。SLTAは回答に対する結果を6段階に分類していますが、グラフを作成するときに6,5段階の正答できたものだけを記載します。

惜しい回答があってもそれは正答にはなりません。逆に全く答えられない場合も正答ではないので2つは同じ結果(段階)になります。もちろん、部分正答で段階が上がる場合はありますが、部分正答には条件がありそれ以外は認められません。間違い方は人それぞれ異なるため、惜しい回答をしても不正解と判断されてしまう場合があります。マニュアル化するためにはこのような単純化は必要で個別事例を考慮していてはらちがあきません。だからと言って、マニュアルだけに従っていても症状の本質を見ることはできません。検査を受ける多くの人たちは正解と不正解の間に分布しています。どういう誤り方をしたのか、回答している時の様子はどうだったかなど様々な要素を考慮して判断しなくてはいけません。そのため、気になった反応や気付いたことがあれば記録する必要があります。

正解不正解の二極化された結果に反映されない部分にこそ、リハビリのヒントが隠されています。