失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

痙攣性発声障害を克服した一例

 

声が出しづらい症状が出始めて16年ほど経ちます。人生の半分この症状と付き合っていますが、その16年の間どのように痙攣性発声障害と向き合ってきたのかお話していきたいと思います。あくまで私の症状で成果があっただけで、他の方に効果があるかどうかわかりません。一つの参考としていただければ幸いです。

 

まず私がこの症状になり考えたのは精神的なものでした。気の知れた人と話す場合はそんなに症状が出なかったですが、大勢の人の前で話したり、緊張する場面になると途端に声が出しづらくなります。そのようなことがあり、心療内科を受診し、精神安定剤を処方してもらったのですが、全く効果がなくむしろ余計声が出しづらいなりました。

 

言語聴覚士の養成校に入ったころ、ホームページでたまたま見つけたのが「ボイスリッチEX」というサプリメントでした。これは、歌手や教師のような声を頻繁に使う方のサプリメントとして売られていたものです。藁にもすがる思いでこのサプリメントを注文し試しました。最初は効き目を感じなかったですが、数週間すると声が出しやすくなった気がしました。この時点ではまだ良くなった気がするというだけで確信はありません。値段が高かったこともあり、一時飲むのを中断しました。数日するとまた声が出しづらくなったのです。プラセボ効果のような薬の効果ではなく精神的なことが影響しているのではないかとも思ったのですが、飲むことをすっかり忘れて意識していなかった時も、なんか声が出しづらいなと思って思い返してみるとボイスリッチを飲んでいなかったということが何度もありました。そのため、プラセボ効果ではなくサプリメントの効き目だと考えました。それらの考察に至るまでには数年かかります。その間、飲んだり飲まなかったりする時期が続きました。大勢の前で話さないといけない時などここぞというときには飲むようにしていました。

 

私にとって痙攣性発声障害の軽減にこのサプリメントは大きな役割を果たしていましたが、それだけでは不十分で他にも何か別の方法を考えないといけませんでした。

 

大学時代、私はカラオケにハマります。最初は飲み会の2次会で歌う程度でしたが、ある時歌の練習で一人カラオケをした時によりはまってしまいました。歌を歌っている時は声の出しづらさは軽減し気持ち良く声を出すことができました。また、一人で歌うと周りを気にすることなく変な声が出たとしても誰にも笑われることなく気兼ねなく歌うことができます。長い時は一人で4時間ぶっ続けで歌っていました。すると、先ほど紹介してボイスリッチを飲んでいない時でも声が出しやすい気がしました。この時も気がするだけで明確に効果があるとはわかりませんでしたが、2ヶ月ぐらい歌わないとまた声が出しづらくなり、カラオケすると声が出しやすくなりました。ここで厄介なのが、歌ってすぐに効果が出るのではなく、歌った直後は声が枯れて逆に声が出しづらくなり、それが治ってくる1週間後ぐらいから効果が出始めるということです。そのことに気づくのも数年かかります。そして、カラオケも数曲歌うだけではダメです。2時間は連続して歌い、声が枯れてしまうぐらい大声で歌う必要があります。音声治療の基本として大声を出しすぎないというものがありますが、私の症状に関しては限界以上に声帯を動かす必要がありました。一度声が枯れて非常に歌いづらくなる時がありますが、そこを乗り越えると不思議なことに声が復活しました。注意点としては、無理やり声を出すのではなく、正しい発声法で長時間歌うことです。巷に多くのボイストレーニングの本が販売されているのでそれらを参考にして下さい。

 

以上2つが私にとって効果が大きかったものですが、それ以外も効き目がありそうなものがあったので簡単に紹介していきます。

 

3つ目は運動です。社会人になってランニングを趣味で行うようになり、声の調子が良くなりました。ランニングを習慣にしている間は気づかなかったですが、サボり気味になった時に声の調子が悪くなって、ランニングが効果あるのではないかと思うようになりました。

 

4つ目は体の柔軟性です。私は肩周りを含め体が硬かったのですが、筋肉が柔らかくなると声帯の動きも良くなるのではと思い柔軟を取り入れるようになりました。結果、良くなった気がします。

 

5つ目はカルシウムです。牛乳を飲んでいる時と飲んでいない時で声の出しづらさに変化がある気がしました。カルシウムは筋肉を動かすために必要な栄養素でありそのことが影響しているのではと考えています。

 

以上5つが私が痙攣性発声障害に効果があると感じたものです。気がするという言葉が多かったと思いますが、それは5つの事柄が相互作用しているので、どれが影響しているのか分かりづらかったためです。しかし、これは16年という長い期間をかけて自分の体を実験台にして導き出した結論です。

現在は、カラオケを2週間に1回行くようにし、肩や頸部の柔軟、牛乳を毎日飲むことを習慣化したことでボイスリッチを飲まなくても声の出しづらさは少なくなりました。ボイスリッチのデメリットは値段が高いところがあり、それが必要なくなったのは大きいです。

 

5つに共通しているのは、声帯の筋肉を動かしやすくするというものです。痙攣性発声障害の治療法としてボツリヌス注射というものがありますが、それも筋肉の緊張を和らげるものです。いかにして声帯の筋肉の緊張を和らげスムーズに動かせるかそれが重要です。

ここに挙げたもの以外にも方法はあるかもしれません。そして、この5つを試したけど効果が出なかったというものもあるかもしれません。

一人ひとり効き目には個人差があると思いますが、どういうときに声が出しやすく、どういうときに声が出しづらくなのか自分の体で観察していくことが大切だと思います。たとえ、医者からそんなのは効果ないよと言われても自分にとって効果があると感じたものは信じていいと思います。医者の言う効果ないとはあくまで現在の医学でわかっている範囲内のことで絶対的なものではありません。

この記事が少しでも声に悩む人たちの助けになることを祈っています。