失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

失語症の理解障害を考える

失語症の理解障害は、どういうメカニズムなのでしょうか? 前回、失語症は継時的処理の障害という話をしました。理解障害も同様です。 情報処理が追いつかずに理解できないのが失語症の理解障害です。 単語だと理解できても文になると理解できないのもそのた…

失語症は言語の障害か?

失語症は言語野の損傷により生じるものです。一般的に左脳は言語、右脳は空間に関係すると考えられています。 失語症のメカニズムを説明するときには、聴理解を司る部分(ウェルニッケ野)、発話を司る部分(ブローカ野)という基本の理解があり、流暢性失語…

痙攣性発声障害を克服した一例

声が出しづらい症状が出始めて16年ほど経ちます。人生の半分この症状と付き合っていますが、その16年の間どのように痙攣性発声障害と向き合ってきたのかお話していきたいと思います。あくまで私の症状で成果があっただけで、他の方に効果があるかどうかわか…

言語聴覚士になったきっかけ 痙攣性発声障害との戦い

今回は、私が言語聴覚士になったきっかけを話していこうと思います。 まずは高校時代に遡ります。私は高校で軽いいじめに遭っていました。その影響で吃音のように出だしで吃るような症状が出始めました。特に人前で話す時や緊張した場面になるとその症状は強…

ファクトフルネスから考えるリハビリ2 単純化本能

ファクトフルネスというベストセラー本から言語聴覚士(以下ST)のリハビリについて考えていきます。今回紹介するのは「単純化本能」です。 これは、シンプルなものの見方に惹かれるというものです。賢い考え方がひらめくとわかったと興奮し他の考え方が頭に…

ファクトフルネスから考えるリハビリ1 分断本能

ファクトフルネスというベストセラーの本があります。これは貧困や教育など世界情勢を正しく見る方法が書かれていて、言語聴覚士(以下ST)の仕事とは関係ないように思えます。しかし、データを正しく読み取るというところには共通点があると思います。今回…

数をこなせばよくなるか? 桑田流練習法から考える

巨人で活躍されていた桑田真澄さんが、ピッチャーの打撃練習の取り組み方について興味深いことを話されていました。桑田さんは、ピッチャーとして優秀な成績を収めていますが、バッターとしても投手による打率ランキングで歴代1位とのことです。 ピッチャー…

手の行為と言語行為

言葉を発することができない人は手話を用いてコニュミケーションを取ることができる。しかし、手話失語というものがあり、失語症になると手話にも障害が生じコミュニケーションが取れなくなる。手の行為と言語行為は共通点が多いように思う。 ある学会で印象…

言語聴覚士 スキルアップ資格6選

言語聴覚士(以下ST)は、国家試験に合格し免許を取得することで従事できます。そして、一度取得すればその後更新の必要はありません。つまり、国家試験にさえ合格してしまえば、仕事をするのにスキルアップは不要です。スキルをいくら上げても、それによる…

知覚と運動の新しい考え方 自由エネルギー理論

自由エネルギー理論は、Karl Friston氏が2005年から2010年の間に脳の情報処理の統一理論として構築したものです。 まず、自由エネルギーとは、あるシステムの内部エネルギーから熱になって出ていくエネルギーを引き、実質仕事として取り出せるエネルギー(自…

言語は空間の一部である 

エドワード・ホール著の「かくれた次元」に興味深いことが書かれていたので紹介したいと思う。 虹の色が文化によって違うことは知っている人も多いだろう。日本だと7色、アメリカは6色、南アジアのバイガ族は赤と黒の2色で認識するらしい。 「雪」という…

マニュアル通りやれば失語は治るのか?

失語症は高次脳機能障害の1つである。基本的なことだが、そのことを疎かにしてしまっていることが多い気がする。 言葉が出てこないから呼称訓練をして、書字できないから書字訓練を行う。検査でできなかった項目をそのままリハビリに取り入れるのは、マニュ…

記憶障害に対する考え方

高次脳機能障害の一つに記憶障害がある。 今回は、高次脳機能における記憶力向上のリハビリに対してどのような考えを持つべきか述べていきたいと思う。 読者の中には、思い出せないことが思い出せた時に記憶力が鍛えられていると考える人もいるかもしれない…

教材シリーズ3 抹消課題(無限作成バージョン)

抹消課題は、注意障害の方によく用いるリハビリです。 今回は、ひらがな、数字、アルファベット、記号の4種類用意しました。 抹消する数、抹消の仕方を✔︎や◯などの複数で行うなど難易度設定は工夫次第で変更可能です。 F9ボタンを押すことでランダムに配置…

教材シリーズ2 計算問題(無限作成バージョン)

高次脳教材第2弾は計算問題です。 F9を押すことで数字(1~10)がランダムに変化し符号(+、−、×)も変化します。 引き算は、答えがマイナスになる場合があります。 drive.google.com

教材シリーズ1 TMT-A様課題 (無限作成バージョン)

高次脳機能障害のリハビリで大変な作業の一つが教材作成です。 特に意欲のある方はリハビリの時間以外にも宿題でプリントが欲しいと言われる方も多く、大量のプリントを用意する必要があります。 一人ひとり症状のレベルが異なるため、その人にあったオーダ…

ヒトとコンピュータの処理の違い

今回は、ヒトとコンピューターの処理の違いについて考えていきたいと思います。 Alの進歩は凄まじくAIと会話をしても違和感がないところまで技術が進んでいます。しかし、コンピューターの行為と人間の行為がたとえ同じであってもそこに至る過程は異なります…

会話における4つの公理

言語学者のポール・グライスが協調の原理として4つの公理を示しています。 1.量の公理:必要な量の情報を提供し、情報を過不足なく与えること 2.質の公理:真実と思っていることを言うこと 3.関係性の公理:関連性のあることを言うこと 4.容態の公理:不明…

言語の専門家として

ことばの障害を専門とする言語聴覚士(以下ST)ですが、日本語の仕組みについて詳しく知っているSTは少ないと思います。 STの国家試験では、言語学の分野からも出題されるため勉強しますが、臨床現場ではほとんど使う機会はないです。しかし、相手が誤った発話…

舌は第三の手

先日、ディサースリアの新しい訓練法であるMTPSSEの講習会を受講してきました。今年が第1回目の講習会で、来年以降も講習会を行うようです。今回参加した第1回の講習会では考案者の西尾先生が全て講義をしていただきました。 その中で、特に印象に残ったの…

失語症のタイプ分類 〜遠心性運動失語〜

失語症のタイプ分類は、ボストン学派などの古典分類が有名です。今回は、一般的なタイプ分類ではなく、ルリヤによる分類を紹介していきます。 この分類は、全体構造法(JIST)を行う上で重要なものですが、それ以外のリハビリをしていく上でも参考になると思い…

言語行為について オースティン「言語と行為」

イギリスの言語哲学者であるオースティンが「言語と行為」(1962)で言語行為と言うものを3つに分類しています。 1.発話行為:伝達を目的として、一定の意味を持つ文を発話する行為。 2.発話内行為:発話によって、その意図が聞き手に伝わること。 3.発話媒介…

失語症治療のアプローチ方法12 〜認知神経リハビリテーション〜

認知神経リハビリテーションとは、元々片麻痺のリハビリから発展してきたもので、イタリアの臨床神経生理学者カルロ・ペルフェッティにより考えられたものです。 現在では片麻痺だけではなく、失行、半側空間無視、疼痛など様々な領域に展開されており、失語…

失語症治療のアプローチ方法11 〜認知言語治療(福島メソッド)〜

認知言語治療は、福島メソッド失語症の認知言語治療ーその方法と実践ー(著:福島和子)で紹介されているものです。 この方法は、認知機能の改善から言語機能の改善を図る治療法です。 脳は、以下の3つの階層的機構に分かれます。 脳幹:生命維持装置 基底…

失語症治療のアプローチ方法10 〜全体構造法(JIST)〜

全体構造法(以下JIST)は、新潟リハビリテーション大学教授の道関京子先生が考えられた治療法です。 言語聴覚士(以下ST)の養成過程ではあまり教えない方法で、働き始めてから本格的に知る方が多いのではないかと思います。 JISTについては教科書が数冊出…

失語症治療のアプローチ方法9 〜 speeded therapy (RISP) 〜

RISP(repeated increasingly speeded presentation)は、刺激絵を提示された後にできるだけ速く呼称するという訓練方法で、2016年8月に広島で開催された「認知神経心理学研究会」でLambon Ralph教授が紹介したものです。 RISPは日本ではほとんど知られいな…

失語症治療のアプローチ方法8 〜認知神経心理学的アプローチ〜

認知神経心理学的アプローチは、主に言語機能の修復や再編成を目指す治療法です。 本邦の失語症治療で現在最も利用されている訓練法の一つです。 認知神経心理学は、Marshallら(1966,1973)による読み書き患者に関する二本の論文が起源です。読み障害のある…

失語症治療のアプローチ方法7 〜CIAT〜

PACEに関連した訓練方法としてCIセラピーの理論を失語症に応用したCIAT(CI aphasia therapy)というものがあります。 CIセラピーは、健側の上肢の使用を制限して麻痺側上肢を強制的に使用させる作業療法士が用いる手技の一つです。 また、言語聴覚士(以下ST…

失語症治療のアプローチ方法6 〜PACE〜

PACE(promoting aphasics communicative effectiveness)訓練は、日常コミュニケーションに近い場面を設定し、自然なコミュニケーションに含まれる手段や条件を活用し、対話形式を重視するものとして開発されたものです。 PACE訓練の原則として以下の4つが…

失語症治療のアプローチ方法5 〜意味セラピー〜

失語症の呼称障害に対して意味的な課題を用いた治療的介入を意味セラピーと言います。 意味セラピーの訓練として以下のものがあります。 1.音声と絵の照合課題:音声で提示された単語に対応する絵を意味的に関連する複数枚の絵の中から選ぶ 2.文字と絵の照合…