失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

ヒトとコンピュータの処理の違い

今回は、ヒトとコンピューターの処理の違いについて考えていきたいと思います。

Alの進歩は凄まじくAIと会話をしても違和感がないところまで技術が進んでいます。しかし、コンピューターの行為と人間の行為がたとえ同じであってもそこに至る過程は異なります。

コンピューターは、ボトムアップ処理で多くの情報を集めてその情報から処理します。一方ヒトは多くの情報量を処理できないので、トップダウン方式で過去の記憶を参照し、予測を立てて処理していきます。トップダウン処理のメリットは少ない情報でも処理できるため素早く反応することができますが、デメリットとして正確性に欠けます。正確性を求めようとするボトムアップ処理では時間がかかってしまいます。

例えば、定食屋に行ってメニューを見たときに書かれている文字を1字ずつ読んでいくと全て把握するまでに時間がかかってしまいます。そのため、ある文字群を認識すると過去の記憶から参照して認識します。

『日本ハグ協会』のマザーさと子さんのブログでこのような文章が紹介されています。

「この ぶんょしう は いりぎす のケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか にんんげは もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす」

一文字ずつ読もうとすると全く意味が通じない文章ですが、流し読みをするとスラスラ読めるのではないでしょうか。それが、トップダウンとボトムアップの違いです。

もちろん、ヒトがトップダウン処理ばかり使用しているのではなく、正確性が求められる場面や記憶や経験が参照できない場面では、ボトムアップ処理が使われます。例えば、就職や入学の初日がすごく疲れるという経験はあると思いますが、それは何が起こるか予測できないためトップダウン処理が使えず、ボトムアップの非効率な処理する必要があり、膨大な処理を行い脳疲労を起こしてしまうからです。

 

失語症のリハビリで考えてみると、「お・は・よ・う」と一音ずつ正確に言わそうとするとボトムアップ処理になり、本来のトップダウン処理で会話をする方法とは異なるものになってしまいます。記憶や経験を参照したり、より自然な会話場面で訓練を行うなどの工夫で今まで表出が難しかった方も言葉が出るようになるかもしれません。