失語症学の発展に向けて

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記憶障害に対する考え方

高次脳機能障害の一つに記憶障害がある。

今回は、高次脳機能における記憶力向上のリハビリに対してどのような考えを持つべきか述べていきたいと思う。

読者の中には、思い出せないことが思い出せた時に記憶力が鍛えられていると考える人もいるかもしれないが実は違う。思い出せたかどうかが問題ではなく、思い出そうと脳を働かせている時が一番脳が活性化しているのである。

患者さんの中には記憶課題で思い出せないからと落ち込んでしまい、リハビリに対する意欲が低下してしまうこともあるが、結果がどうであるかではなく一生懸命考えたことに価値がある。そのことをお伝えするだけでもリハビリに対する意欲が出てくるはずだ。

失語症訓練における呼称課題でも同様の考え方ができる。物の名前が正しく答えられたかどうかが重要ではなく、その名称を一生懸命考えている過程に価値がある。もし、ものの名前を正しく答えられることを目的にしてしまうと、日常で使用する言葉を一つ一つ訓練しなければならなくなる。しかし、実際の患者さんは訓練で使用していない言葉も言えるようになるし、むしろリハビリで使用した言葉ではなく普段よく使っていたであろう言葉で答えることも多い。

頭の中にデータを一つ一つ取り入れるという訓練ではなく、頭の中にすでにある情報をいかに正確に引き出すかの訓練をすべきである。