失語症学の発展に向けて

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失語症治療のアプローチ方法9 〜 speeded therapy (RISP) 〜

RISP(repeated increasingly speeded presentation)は、刺激絵を提示された後にできるだけ速く呼称するという訓練方法で、2016年8月に広島で開催された「認知神経心理学研究会」でLambon Ralph教授が紹介したものです。

 

RISPは日本ではほとんど知られいない訓練方法で、私の知る限り詳細はこの広島の講演会でしか知ることができないのではないかと思います。幸いにも、私はこの講演会に参加させていだいたので、今回紹介していきたいと思います。

また、2018年 Brain に掲載された論文 Time for a quick word? The striking benefits of training speed and accuracy of word retrieval in post-stroke aphasia.にRISPの研究結果が記されているので併せて紹介していきたいと思います。

 

一般的な呼称訓練は、正確性は求めますが回答する速さまでは追求しません。一方RISPは、正確性+速さが求められます。

流暢な連続的な発話は、正確かつ速さが必要です。つまり、正確かつ速さが改善すれば、会話能力も改善するという考え方に基づいています。


健常者の語の想起は、120個/分とされています。そのため、RISPではそのスピードを目標に訓練を行います。

まず、情景画に描かれている単語を抜き出します。それらを使って呼称訓練をしていきます。呼称が難しい場合は、語頭音ヒントを出して答えてもらうところから始めます。

刺激絵はパソコンで提示し、提示するスピードはパワーポイントの再生速度を使って調整します。

論文で紹介されていた方法は、全部で6セッションに分かれており徐々に提示する刺激絵の速度が上がっていきます。

セッション1(3秒)、セッション2(2.5秒) 、セッション3(2秒) 、セッション4(1.6秒) 、セッション5(1.3秒)、セッション6(1秒)

素早く呼称できるようになったら、情景画を提示し説明してもらいます。

 

研究結果では、RISPを実施した群の方が通常訓練群よりも1週間後、1ヶ月後ともに呼称の正確性(A)、呼称スピード(B)、語の般化(C)ともに向上がみられています。

 

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呼称の正確性 RISPとSP(通常の呼称訓練)の比較

 

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呼称スピード RISPとSP(通常の呼称訓練)の比較

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関連する発話におけるターゲットの語彙の使用 RISPとSP(通常の呼称訓練)の比較

RISPは、リハビリで習得した喚語能力を日常会話に般化することに有効ではないかと思います。まだまだ知られていない訓練方法なので、今後研究が進んでいってほしいです。