失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

失語症治療のアプローチ方法10 〜全体構造法(JIST)〜

全体構造法(以下JIST)は、新潟リハビリテーション大学教授の道関京子先生が考えられた治療法です。

 

言語聴覚士(以下ST)の養成過程ではあまり教えない方法で、働き始めてから本格的に知る方が多いのではないかと思います。

JISTについては教科書が数冊出版されており、講習会も年に3回実施されています。しかし、実際にJIST法を使ってリハビリをしているSTは少ないように感じます。

その理由は、教科書を読んだり講習会に参加しても実際にどのようにリハビリすればいいのかわかりづらいからです。

 

JISTの講習会は、初級講習会という文字どおりJIST法を知らない初心者向けの講習会です。JIST法の基本理念や手技など2日間で基礎的な部分を教えていただけます。

しかし、2日間学んでも次の日からすぐ使えるものではありません。道関先生もお話しされていたことですが、JIST法にはマニュアルは存在せず、患者様一人ひとりに合ったアプローチをしていかなければなりません。

 

そして、JISTを実践していく上で最も重要で難しいところは、タイプ分類です。

一般的な失語症のタイプは古典分類により分けられることが一般的ですが、JIST法では、心理学者のルリヤによって考えられた失語症分類を使用します。これは、従来の古典分類と対応できるようになっており一見同じような分類に見えますが、根本的な考え方が異なり、そこがわからないと適切にタイプ分類はできません。

年に一回ある学術集会では、症例検討を1症例につき約1時間という長い時間をかけて行いますが、その多くの時間でタイプ分類について議論されています。

 

今までこのブログで紹介してきた失語症の治療方法は、タイプ分類に関係なくどういう症状が出ているのかで治療法が決定していました。タイプ分類は、治療に活用するものではなく、スタッフ間の情報共有として使用されている面が大きいです。しかし、JIST法では、タイプによってアプローチ方法が異なります。言葉がうまく出ないという症状でもその奥に潜んでいる原因が何なのかによって変わってきます。

 

また、JISTの基礎の部分にヴィゴツキーやメルロ=ポンティなどの心理学や哲学の考え方が含まれており、そのようなことも理解する必要があります。

 

今回は、簡単にJISTについて紹介してきましたが、ルリヤのタイプ分類やJISTの手技などを今後紹介していければと思っています。

 

 JISTについて比較的わかりやすく書かれています。初めて学ぶ方にオススメです。

 なお、最低限の内容になっているため、この本だけでJISTを実践していくには不十分のように思います。

この本を読んだ後、JISTの初級講習会を受けるとより理解が深まると思います。