失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

失語症治療のアプローチ方法4 〜メロディックイントネーションセラピー〜

ロディックイントネーションセラピー(MIT)は、1970年代にアメリカで開発された音楽のもつ節回しやリズムを利用して失語症者の発話を改善させる方法です。

通常の訓練では、音韻・意味・文法などの言語学的要素(主に左脳)を用いるのに対して、MITは非言語学的要素(主に右脳)にアプローチしていきます。

 

言語聴覚士(以下ST)は失語症者と向かい合い、STの右手で患者の左手(左手は右脳と繋がっているため)を取って座ります。STの左手は様々な指示を与える際に用いられます。ゆっくりとしたイントネーション、左手のタッピング、聴覚から運動へのフィードバックがMITの特徴です。

 

例えば「おはよう」の発話を訓練する場合、「お・は・よ・う」という高低2つのピッチで表した言葉を患者に提示してゆっくりと発話してもらいます。ゆっくりと発音することで左半球(優位半球)の負担が軽減され、タッピングを行うことでメトロノームのようにベースを与えて発話の手がかりを示します。歌唱による母音の引き延ばしは、次の音を予想する時間的余裕を与え、自己修正が可能になり、聴覚・運動のフィードバックによって発話が改善するというものです。

MITは、1.左半球の単一病変、2.非流暢の失語症、3.単語レベルの復唱の障害、4.構音障害、5.聴覚的理解が良好で有効だとされています。

 

昨年12月放送のサイエンスZERONHK)で紹介されていた治療法ですが、MITの適応対象・方法が厳密であり、概要を知っていても適切に治療できるSTは少ないと思います。学会などの研究発表されているものが少なく、治療効果も限定的だとされています。

 

STがよく行うものとして、発話が乏しい重度の失語症者に歌を利用して発話を促すことがありますが、これはMITとは異なる方法のため混同しないように注意が必要です。