失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

マニュアル通りやれば失語は治るのか?

失語症は高次脳機能障害の1つである。基本的なことだが、そのことを疎かにしてしまっていることが多い気がする。

 

言葉が出てこないから呼称訓練をして、書字できないから書字訓練を行う。検査でできなかった項目をそのままリハビリに取り入れるのは、マニュアル的であり、それだけでいいのなら、

看護師が失語検査の研修を受けて検査できるようになればそれで問題なく、言語聴覚士なんて必要ない。(嚥下障害も嚥下専門の認定看護師がいるし、失語以外の高次脳は作業療法士がカバー可能である)

正確に検査をすることは大切なことであるが、点数だけではわからないその奥の根本的な原因について考えられてこそ失語症の専門家としての意義があると思う。

 

そのベースとして、高次脳機能障害でよく使われる神経心理学ピラミッドが役に立つ。

これは、ベースに覚醒があり、発動性・抑制、注意、情報処理、記憶、遂行機能、自己認識の順に構成されているものである。

 

言葉が出てこない・うまく言えないという症状を例にすると、

覚醒低下・・・覚醒低い状態ではそもそも言葉が喋れない

発動性低下・・・しゃべるという意欲がなく言語機能が保たれていても言葉を発しない

抑制低下・・・思いついたことをそのまま話してしまう、関連した言葉が思い浮かんでしまう

注意低下・・・自身の構音(口唇・口腔内の動き)に注意が向かず誤った発音になる

情報処理低下・・・ことばを思い出すまでに時間がかかる

記憶低下・・・言葉自体を忘れている

遂行機能低下・・・単語は表出できるが、文になると文構成が困難になる

自己認識低下・・・自分の症状を客観的に捉えられず、誤った発話に対しての修正が困難

 

以上、思いついたことを書いたものなので、間違っている項目があるかもしれないが、ここで伝えたいことは言葉が出てこないという症状だけでもこれだけの原因が考えられるいうことである。検査の点数だけではわからない。どういった間違いをしたのか、答えるまでにどれぐらい時間を要したか、普段の会話と検査での違いはないかなど失語症者のすべての言動を総合して根本的な原因が何なのか考察する必要がある。それには、長年の経験が必要になるだろう。

失語症の検査でSLTAというものがある。この検査には検査時間の短縮や被験者の負担軽減のため、検査困難な項目は飛ばしてもいい箇所がある。大抵のSTはマニュアル通りにそれらの項目を飛ばして行うが、私はこのやり方はあまり好きではない。

全く何も反応がないのなら飛ばしてもいいかもしれないが、できない項目でも何かしら反応していだだけることがほとんどである。どんな間違いをしたのか知ることはその後のリハビリ内容を考える上で大きな材料となる。点数だけ見ても根本的な症状は見えてこない。

 

机上の勉強、マニュアルだけではわからない、多くの症例を経験しないとわからないことがある。だからこそ、言語障害の専門家としての存在意義があると思う。