失語症学の発展に向けて

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知覚と運動の新しい考え方 自由エネルギー理論

自由エネルギー理論は、Karl Friston氏が2005年から2010年の間に脳の情報処理の統一理論として構築したものです。

まず、自由エネルギーとは、あるシステムの内部エネルギーから熱になって出ていくエネルギーを引き、実質仕事として取り出せるエネルギー(自由に仕事に変わりうるエネルギー)のことです。

そして、自由エネルギー理論は自由エネルギーを最小化しなければならないというものであり、具体的には予測誤差を最小化することです。

自由エネルギー原理の観点でみると、知覚は「感覚信号の予測誤差を最小化するように予測信号を修正すること」で、感覚信号が生じた原因を推論することです。

車の運転を例に考えてみると、初心者の運転手は、余計なところに力が入ってしまいすぐ疲れてしまいます。一方で、ベテランの運転手は、余分な力を入れず最小限の力で運転できるため疲れづらい。この2人の違いは、予測誤差をどれだけ小さくできたかによります。

こうすればこうなると予測できていれば試行錯誤なく動かすことができます。一方、予測できなければ、一つずつ試していってどうすればいいのかいちいち確認しないといけなくなります。脳の容量は限られているため、一つ一つを試行錯誤しながら行うことは不可能です。効率的に物事を行うためには、できる限り現実に近い予測を立てて、試行錯誤する回数を減らす必要があります。

自由エネルギー理論の観点で考えると運動の捉え方も変わってきます。

運動野から出る指令は、運動を指令する信号ではなく、「感覚の予測信号を出すもの」です。運動野が感覚の予測信号を出すと、現在の自己受容信号と目標となる自己受容予測信号との差(予測誤差)がなくなるまで運動を行う。これが運動の正体です。

今まで知覚と運動は別のものとして捉えてきましたが、脳内では知覚と運動は区別はないといえます。

私は、自由エネルギー原理の考え方が今後の失語症治療において重要になってくると考えています。私もまだまだ勉強中ですが、今後も自由エネルギー原理と失語症の関係について考察していきたいと思っています。