失語症学の発展に向けて

言語聴覚士に役立つ書籍や考え方を紹介していきます

言語行為について オースティン「言語と行為」

イギリスの言語哲学者であるオースティンが「言語と行為」(1962)で言語行為と言うものを3つに分類しています。

1.発話行為:伝達を目的として、一定の意味を持つ文を発話する行為。

2.発話内行為:発話によって、その意図が聞き手に伝わること。

3.発話媒介行為:発話によって、ある行為が行われること。

 

発話行為は、文法的に正しい言葉を発する段階です。そして、この発話行為を行うことにより聞き手に意図が伝わることが発話内行為です。その発話内行為により生じる機能は発話内効力と呼ばれ、命令・約束・依頼・質問・警告・陳謝・提案・勧誘・祈願・感嘆などがあります。発話内行為により、その結果として聞き手やその他の人の感情、思考、行動に何らかの結果が生じる行為を発話媒介行為と言います。

 

具体例で示すと、

子供がお腹がすいたときに「お腹すいた」と言葉に出す(発話行為)

その言葉が近くにいた母親に伝わり依頼できた(発話内行為)

母親が実際にご飯を作り出す(発話媒介行為)

というようになります。

 

一般的な失語症訓練では、発話行為の部分に重点が置かれているように感じます。文法的に正しい言葉が言わればそれでOKではなく、その結果、自分の意図が相手に伝わり影響を与えられてようやく発話が成り立つのです。

前回のブログで「運動」と「行為」の違いについて書きましたが、発話行為だけでは「運動」にしかなっておらず、「行為」の段階にいくには、発話内行為、発話媒介行為が必要です。